マルレク 2018-2019 の開催について

2018年3月 丸山 不二夫

マルレク 2018-2019 開催趣旨

マルレク 2018のテーマは、「Post Deep Learning時代の人工知能技術を展望する」です。丸山の”Post Deep Learning”という見方について、少し詳しく述べて見ました。お読みください。

マルレクへの支援・協賛、今年もよろしくお願いします。

——————————-
「Post Deep Learning時代の人工知能技術を展望する」
——————————-

この間、丸山は、マルレクでは、「ニューラル・ネットワークと技術革新の展望」をテーマに、ディープ・ラーニング技術のトピックスを継続的に取り上げてきました。また、MaruLaboと連携して、Google, Amazon, Microsoft といったクラウド・ベンダーや角川アスキー総研の協力を得て、IT技術者向けのディープ・ラーニングを学ぶクラウド・ハンズオンを連続的に展開してきました。

現代のディープ・ラーニング技術は、MLP, CNN, RNN(LSTM)、強化学習モデルといった多数のモデルを擁し、その応用は、画像認識、音声認識、自動運転・ロボットの制御、ゲーム、機械翻訳等々、広い範囲に及び、それぞれの分野で大きな成果をあげています。そうした応用分野の拡大は、今後もさらに続くでしょう。「マルレク 2018」でも、ディープ・ラーニングの世界の最新のトピックスを、引き続き、取り上げて行きたいと考えています。

同時に、2012年から始まったディープ・ラーニング技術の「ブーム」から5年が経過した今日の時点で、冷静に現在の到達点を評価する必要を感じています。現時点でのディープ・ラーニング技術の達成は、人工知能技術の目標である人間の「知能」の機械による代替に成功したというよりは、人間と動物に共通する「感覚=運動能力」の機械による代替に、大きな可能性を開いたということに他ならないと僕は考えています。

Amazon AlexaやGoogle Home等のボイス・アシスタント・デバイスの急速な普及は、機械はまだ人間の言葉を正確に理解できないこと、また、それらのデバイスからは、文字で蓄積された膨大な「知識」を自由に利用できないことを多くの人に気づかせています。

これから普及が加速するであろう自動運転車にしても、例えば、交通法規(これは時々変わります)を守って安全に走行させるには、「ルール・ベース」のコントロールが必須です。さらに言えば、予想していなかった状況に遭遇した時、合理的で論理的な判断を行う能力が、本当は求められるはずです。これらの技術は、決して、ディープ・ラーニング技術に閉じていません。

重要なことは、ディープ・ラーニング技術が可能にした、これらのコンシューマ・レベルでの新技術(ボイス・アシスタント、自動運転車)の普及の中で、今後、ますます多くの人に「AIの未熟さ」として意識されるであろう課題が、人工知能技術がこれから向かうべき方向を正確に指し示しているということです。 繰り返すと、ボイス・アシスタントでいうと、自然言語の正確な理解と「知識」の自由な活用、自動運転車でいうと、「ルール・ベース」の柔軟なコントロールと論理的な推論能力の実現が、そうした課題です。

ひるがえって考えれば、ディープ・ラーニング技術が大きな成果をあげた、人間と動物に共通する「感覚=運動能力」の機械による実現を超えて進むには、動物と人間を明確に分かつ人間固有の認知能力 — 僕は、言語的認識能力と数学的認識能力の二つが重要と考えているのですが — の機械による実現に向かう必要があります。

残念なことに、現時点では、これらの能力を機械で実現する確実な方法が存在するわけではありません。おそらくこうした課題を解決するには、一定の時間が必要です。それが、長期の取り組みになる可能性は高いのです。ただ、人工知能研究が向かうべき方向は、理論的にも実践的にも明らかだと考えています。そうした方向性を明らかにしたのは、2012年以来のディープ・ラーニングを中心とする人工知能研究の、大きな貢献です。

こうした時、人工知能研究をさらに推し進める重要な方法があると、僕は考えています。それは、言語的認識能力については言語学と、数学的認識能力については数学との研究の連携を進めることです。

現代の言語学では、ChomskyらのMinimalist Programに基づいて、機械的に計算可能な過程として、言語活動をボトムアップから構成しようという研究が、広く受け入れられています。

数学では、VoevodskyらのUnivalent Theoryが、数学の基礎にある「同一性」概念に新しい知見をもたらすとともに、数学の証明のコンピュータによる自動化に精力的に取り組んでいます。

こうした取り組みは、人間の認識能力についての深い洞察を可能にするものであると同時に、いずれもが、それをコンピュータ上で実現しようという明確な指向を持っているのが大きな特徴です。こうした動きが、将来的には、人工知能研究と合流していくのは確実だと、僕は考えています。

より一般的に言えば、技術のイノベーションには、それを支える科学の発展が不可欠なのです。今回の「マルレク2018」のメイン・テーマは、「Post Deep Learning時代の人工知能技術を展望する」なのですが、サブ・テーマとして、「科学と技術のイノベーションの接点を探る」を設定したいと考えています。人工知能研究でもこうした視点が重要だというのは、先に述べた通りです。

このサブ・テーマで、ITの世界の将来展望と深く結びつき、またIT技術者の関心が高いのは、「量子コンピューティング」をめぐるトピックスだと思います。このトピックスも、「マルレク 2018」では、積極的に取り上げて行きたいと思っています。