全体概要

本セミナーは、2016年という時点において、モバイルとクラウドという現代IT技術の二大インフラが到達した地点を精密に描写しつつ、その延長線上で人工知能技術がどこへ向かうのかを問う講義です [p.1, p.3]。

2016年は、スマートフォンの世界普及率が契約者ベースで99.7%に達し [p.23]、インターネットへのアクセスが世界の家庭の52.3%に広がったという、人類史的な転換点でした [p.25]。通信インフラは5Gの仕様策定へと向かい [p.7]、Googleが中心となった60Tbpsの日米間海底ケーブルFASTER [p.15]、120TbpsのPNLC [p.16]、FacebookとMicrosoftによる160TbpsのMAREA [p.17] といった巨大IT企業による通信回線の直接占有という「驚異的な変化」が進行中でした [p.18]。クラウド側ではGoogleがデータセンター内ネットワークをわずか10年で5回改造し、1.3PbpsのJupiter [p.51] というClos Topology型の分散・集中管理アーキテクチャを実現しています。

同時に2016年は「3D VR元年」であり、Oculus Rift、HTC Vive、Microsoft HoloLens、PlayStation VR、Google DayDreamが相次いで発売され [p.81]、モバイルと身体的知覚を結びつける新次元のインターフェースが産声を上げました。

第二部では、こうしたインフラの上に展開されるGAAF(Google・Apple・Amazon・Facebook)の人工知能戦略を俯瞰し、ボイス・アシスタント・システムの実装構造を具体的なコードレベルで解説します [p.142, p.200]。そして最終的に、セミナーが到達する問いは「究極の人工知能とは何か」です。Larry PageはそれをGoogleの究極の検索エンジン、すなわちネットそのものが知性を持つことと同一視しますが [p.158, p.163]、講師はこれに対して「世界の全情報を一つのマシンが知る必要はない」「謎のない世界に認識の進歩はない」という批判的・哲学的視座を提示します [p.241, p.243]。そして結論として、AIの成果を「外的なもの」に留めず人間自身に還元し、すべての人がロボットやAIを自らの手で作り出す基本スキルを持つことが最善であるという、深く人間的な人工知能観が示されます [p.247]。

講義のロードマップ

ここでは、セミナーの講演資料がどのようなパートから構成されているかを示します。また、それぞれのパートのポイントを紹介します。

■ Part 1: モバイルとクラウドの現在

5G・海底光ケーブル・データセンター内アーキテクチャという三層のインフラ革新が、いかに同時並行で進行しているかを定量的・構造的に明らかにします。さらに、ニューラルネットワークの「訓練」と「推論」の非対称性がクラウドとモバイルの双方に与えるインパクト、VR/AR元年の製品群の比較、そしてパーソナル・アシスタント・システムという人工知能普及の最初の形態が提示されます [p.3, p.45, p.67, p.80, p.117]。

■ Part 2: 人工知能技術の向かう未来

GAAFそれぞれのAI戦略の哲学的差異を対比しつつ、音声・画像認識APIの具体的な実装と、Cortana・Alexaのボイス・アシスタントのプログラミングモデルを解剖します。そして最終的に「パーソナル・アシスタント・システム」という人工知能観を軸に、Deep Learningと知識グラフ検索技術の協働という未来像と、集中型AIへの批判的視座が提示されます [p.141, p.226, p.238]。