全体概要

本セミナーは、「Internet of Things(IoT)」というキーワードを単なるIT業界のバズワードとして消費するのではなく、グローバルネットワークの成立という世界史的変化と、製造業の構造的変革という二つの大きな潮流の交差点として精密に読み解こうとする試みです [p.1, p.2]。

出発点となるのは、ITU(国際電気通信連合)が2013年に発表した統計データです。携帯電話の世界普及率は96.2%(68億3500万台)に達し、スマートフォンによるモバイルブロードバンド利用者はすでに20億9600万人を超えています [p.6]。この延長線上に、今後10年で新たに40数億人がスマートフォンを持つ「Next Billions」の時代が到来し、約70億人がインターネットに接続する「Global Network」が実現するという展望が描かれます [p.9]。

しかしセミナーの核心的な主張は、「インターネットの未来は『モノのインターネット』に変化するのではなく、引き続き『ヒトのインターネット』であり続ける」という点にあります [p.49]。IoTの本質的な意義は、「経済のネットワーク化」、すなわち生産・流通・消費・決済の全過程をネットワークに包摂する「Cyber-Physical System(CPS)」の実現にこそあると論じられます [p.53]。

この視座から、ドイツの「INDUSTRIE 4.0」、アメリカの「Advanced Manufacturing Partnership」、中国の第12期5カ年計画という三大国の取り組みが比較分析され、IT技術と製造技術の統合が「第四次産業革命」を構成するという歴史認識が示されます [p.54, p.61]。そしてセミナーの最終章では、GoogleのProject Araとオープンソースの設計ツール「Metamorphosys」、さらに3Dプリンター技術の急速な進化が、「モノづくりの民主化・分散化・デジタル化」という新しいエコシステムを生み出しつつある現実が具体的に描かれます [p.100, p.103, p.122]。本セミナー全体を貫くテーマは、「サイバー空間と物理的生産の世界が結びつく時、経済と社会はどう変わるか」という根本的な問いです。

講義のロードマップ

ここでは、セミナーの講演資料がどのようなパートから構成されているかを示します。また、それぞれのパートのポイントを紹介します。

■ Part 1: グローバルネットワークの成立

ITUの統計データを根拠に、携帯電話・インターネット・スマートフォンの普及がいかに急速かつグローバルな規模で進行しているかを確認します [p.3, p.6]。現在のスマートフォン普及水準は「10年前の携帯電話と同じ水準」であるという認識を起点に、今後10年で70億人規模のグローバルネットワークが成立するという歴史的転換点を提示します [p.7, p.9]。

■ Part 2: IT企業の「IoT」への取り組み

IBM(Smarter Planet)、Intel(トランジスター数予測)、SAP(ERP・Supply Chain Management)、Microsoft(Azure M2M・Windows for IoT無償化)といった主要IT企業がIoTをいかにビジネス拡大の機会として捉えているかを概観します [p.13, p.14, p.17, p.23, p.24, p.26, p.27]。IoTは企業のリーチを社会生活の全領域に拡大する機会であるという共通認識が示されます [p.12]。

■ Part 3: ウェアラブル・デバイスとIoT

ウェアラブルへの関心はIoTへの関心と深く連動しており、その中で最も基本的かつ重要なウェアラブルデバイスは「スマートフォン」であるという論点が展開されます [p.32, p.36]。さらにスマートフォンが他のローカルセンサーのハブとして機能することで、IoTの世界を実質的に拡張する役割を担うと論じられます [p.39]。

■ Part 4: 「Internet of Things」の意味するものを考える

IoTというネーミング自体に内在する問題を批判的に検討し、インターネットの本質は引き続き「ヒトのインターネット」にあるという立場を明確にします [p.48, p.49]。その上で、IoTの真の意義は「経済のネットワーク化」=Cyber-Physical Systemの実現にあると再定義します [p.53]。

■ Part 5: ドイツ・アメリカ・中国の取り組み

製造業とITの統合という課題に対して、三大国がそれぞれ異なるアプローチで国家戦略的取り組みを行っていることを比較します [p.54]。特にドイツの「INDUSTRIE 4.0」は、産業革命の歴史認識と第四次産業革命のビジョンを最も明確に体系化したものとして詳細に論じられます [p.55, p.61]。

■ Part 6: Project Araと新しい「モノづくり」のエコシステム

GoogleのProject Araは、スマートフォンのモジュール化・50ドル低価格化という目標のみならず、オープンソース設計ツール「Metamorphosys」と3Dプリンター技術の組み合わせによって、「モノづくりの民主化・分散化・デジタル化」という新たなエコシステムを切り開く試みとして位置づけられます [p.88, p.100, p.103]。GEの取り組みもその潮流の象徴として詳述されます [p.114, p.122]。