講演資料


講義資料スライドの表紙

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全体概要

本セミナーは、2016年9月27日に開催されたMaruLabo主催の技術講演「パーソナル・アシスタント・システムとAI」の講義資料に基づいています。中心的なテーマは、人工知能技術の社会への最初の浸透経路が「個人支援システム(パーソナル・アシスタント・システム)」として現れるという見立てのもと、その具体的な実装と技術的背景、そして将来展望を多角的に検討することです [p.4]

自動車・PC・携帯電話といった20世紀型のコンシューマライゼーションの延長線上に、AI技術の普及を捉えるという視点は、本講演全体を貫く基本的な問題意識です [p.4]。講演者は、現在の人工知能技術がまだ揺籃期にあることを率直に認めながら、二つの代表的なプロダクト領域——「自動運転技術」と「ボイス・アシスタント・システム」——を題材に、技術の到達点と課題を具体的に描き出します [p.5]

ディープラーニング技術は、動物の知覚・運動系をモデルとしているがゆえに、センサーを持つ機械の自律運動、とりわけ自動運転とは極めて相性が良く、2020年頃には大きな普及の転換点を迎えるだろうと見通されています [p.5]。一方のボイス・アシスタントは、自然言語理解という未解決の難題を抱えており、現在の実装の多くは音声コマンドベース・シナリオベースのBOTに留まっています [p.5]

しかし、本講演が特に注目するのは、ボイス・アシスタントにおけるディープラーニングの入出力利用よりも、人工知能と検索技術の連携という動向です [p.6]。これは、マシンに自律的な運動能力だけでなく「知識」や「知性」を与えようとする試みであり、知識グラフ・データベースの活用を経由して、最終的には自然言語理解へと合流していく流れとして捉えられています [p.6]

第一部でGAAF各社(Google・Apple・Amazon・Facebook)のAI戦略と代表的なボイス・アシスタントの実装を詳細に分析した後、第二部では検索・広告・グラフデータ処理の進化という視座から、知識グラフのスキーマの可能性と限界、そして自然言語のグラフ構造との本質的な乖離が論じられます。講演の結論として、世界の全情報を一元的に知る「究極のAI」という集中型ビジョンへの懐疑と、すべての個人がパーソナライズ化されたAIのアシストを受けながら、自らAIを作り出すスキルを持つという分散型・共存型の新しい人工知能観が提示されています [p.309], [p.314]


講義のロードマップ

■ Part 0: はじめに——問題設定と全体構図

  • この部の核心:

AIの社会実装の第一段階が「パーソナル・アシスタント・システム」として現れるという基本テーゼを設定し、自動運転とボイス・アシスタントという二つの具体的対象を定位します。ボイス・アシスタントにおいては、ディープラーニングよりも「AI×検索技術の連携」こそが注目すべき動向であるという、講演全体の問題意識の核心が宣言されます [p.4], [p.5], [p.6]

  • 論理展開:
  • AI普及の入口はコンシューマー領域であり、自動車・PC・携帯の延長線上に位置づけられる [p.4]
  • 自動運転はディープラーニングと高い適合性を持つが、ボイス・アシスタントは自然言語理解の困難という根本的問題を抱える [p.5]
  • 知識グラフ・データベースとの連携が、AIに「知性」を与える当面の主戦場となる [p.6]


■ Part 1: ボイス・アシスタント・システム

  • この部の核心:

GAAF各社のAI戦略を概観した後、音声認識・画像認識APIの実装例を紹介し、代表的なボイス・アシスタント(MS Cortana・Amazon Alexa・IBM Watson Dialog・Facebook Bot Engine)のアーキテクチャと実装上の思想を比較検討します。「音声コマンド型」という現在の主流の限界と、次世代的アプローチの萌芽を浮かび上がらせます [p.8]

  • 論理展開:
  • GAAFのAI戦略: Amazonは「Voice Assistantアプライアンス戦争」の到来を宣言し1,000人超の開発体制を敷く [p.34]。AppleはPrivacy保護とデバイス上AI処理を差別化軸とする [p.41]。GoogleのLarry Pageは「究極の検索エンジン=究極のAI」と定義する [p.44], [p.45]
  • 新しいAPI群: Google Cloud Speech API(80言語以上対応)[p.53]、Google Cloud Vision API(LABEL・FACE・TEXT等の検出機能)[p.61]、Microsoft Cognitive Services(Vision / Speech / Language / Knowledge / Searchの5領域)[p.77] が続々登場し、開発者が活用できる基盤が整備されつつある。
  • Turing Testの現実: Eugene Goostmanの「優勝」事例は、デタラメな答えで会話を誘導するBOTの限界を示し、自然言語理解の本質的困難を浮き彫りにする [p.94], [p.97], [p.98]
  • IBM Watson: 音声応答システムの現時点での最高到達点。ESG(English Slot Grammar)に基づく構文・意味解析、質問のFocus/LAT(Lexical Answer Type)検出、100×100×100スケールの証拠評価という多段階処理アーキテクチャが特徴 [p.104], [p.105], [p.107]。現在の一般的なボイス・アシスタントはこの水準に達していない [p.100]
  • MS Cortana: VCD(Voice Command Definition)XMLファイルで音声コマンドを事前定義するシナリオ型実装 [p.111], [p.112]
  • Amazon Alexa: SampleUtterancesでIntentと発話を対応付け、Speechletがイベントドリブンで処理するLambdaベースの実装 [p.123], [p.128]
  • Watson Dialog: 文字列の柔軟マッチング(ワイルドカード `*`, `$`, `%`, `#`)を用いた会話フロー記述型 [p.134], [p.137], [p.138], [p.139], [p.140]。Natural Language Classifierは例文とラベルの対応学習によりIntentを推定する [p.147]
  • Facebook Bot Engine(Wit.ai): 「Story(会話サンプル)」で訓練する機械学習モデルを採用。データが少ない段階はルール同様に動作し、データ蓄積とともにAIモデルへと移行する両立設計が特徴 [p.173], [p.175]。Inbox(ログ→新Story変換)による継続的学習ループを実装 [p.179]


■ Part 2: 人工知能と検索技術

  • この部の核心:

現代ITの「本流」である検索・広告の技術進化を軸に、大規模グラフデータ処理の歴史的展開を整理します。Knowledge Graphのスキーマ(Schema.org)の実際と構造的限界を自然言語と対比することで、現在のグラフベースAIが到達できる「知識」の範囲と、その先に横たわる自然言語理解という本質的課題を明確化します [p.187], [p.188]

  • 論理展開:
  • 検索・広告の技術史: 2000年代のMapReduceバッチ処理による大規模Web検索 [p.205] から、SNS・モバイル普及を背景とした2010年代のリアルタイム処理・グラフデータ処理への転換へ [p.206]。Facebook Open Graph(2010/4)、Google Caffeine・Pregel(2010/6)、Google Knowledge Graph(2012/6)が主要マイルストーン [p.210], [p.211]
  • Google Knowledge Graph: 文字列でなく「もの・こと(Thing)」を検索対象とする。PersonエンティティのbirthDateプロパティなら即座に回答できる一方、「論争相手」のような未定義プロパティには答えられないという根本的制約を持つ [p.199], [p.251]
  • Schema.orgスキーマの構造と限界: Type(IS-a)とProperty(Has-a)の二種類のエッジのみで構成されるグラフであり [p.254]、ボキャブラリーは実践的・プラグマティックなfolksonomyアプローチであって、網羅的・体系的ではない [p.253]。自然言語のボキャブラリーと比較すると質・量ともに「貧困」であり、動詞的関係・多重ルート構造などが欠如している [p.254], [p.255]
  • Schema.orgの利用例: HTML Microdata・JSON-LDによるWebページ・メールへの埋め込み。Google NowのCardはメール本文を「理解」しているのではなく、埋め込まれたタグを読んでいるに過ぎない [p.244], [p.247]
  • 自然言語のグラフ構造: 文の依存構造解析(Penn Treebank、Dependency Grammar)では「動詞」が中心的役割を担い [p.269], [p.270]、IBM WatsonのESG(Slot Grammar)はsubj・obj等のスロットを通じて表層構造と深層構造の両面から文を解析する [p.288], [p.292]。画像のScene Graphも同様のグラフ構造を持ち、言語能力とシーン認識の深い結びつきを示す [p.297], [p.298]
  • 「全てを知る」AIへの懐疑と新しいビジョン: 世界の全情報を一元的に解析する集中型AIは、計算リソース・維持コストの面から現実的でないだけでなく、頑健性・拡張性においても分散型システムに劣る [p.307], [p.309]。次の大きな飛躍はリアルタイム多言語翻訳など自然言語処理領域で起きると予見される [p.314]。全ての人がAIを「自らの手で作り出す基本的スキル」を持つことこそが、AIを外的脅威でなく自己の拡張として受け止める最良の方法であるという結論が提示される [p.314]