講演資料

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全体概要

本セミナー「ソフトウェア開発サイクルの変革とAI Agentの動向」は、AI技術がソフトウェア開発という営みそのものをどう変革しつつあるかを、技術的事実と哲学的考察の両面から掘り下げる意欲的な試みです。

講師の丸山氏が冒頭で鋭く指摘するように、これまでIT技術は「世界を変える側」にあり、開発者自身はその変革の主体として立ってきました。しかし今や、AIという強力な武器を手にした新しいIT技術が、変革の対象リストの最優先事項として、他ならぬソフトウェアの生産現場そのものを標的に定めています [p.3]。この「変革する者が変革される」という逆説的な状況こそが、本セミナー全体を貫く根本的なテーマです。

セミナーは三部構成で展開されます。第一部では、ザッカーバーグ(Meta)の「近い将来AIが大部分のコードを書く」という予測を軸に、Google、Microsoft、OpenAI、Anthropic、Amazonといった主要AIベンダーの戦略を概観し、同時にRSAC 2025で浮き彫りになった「攻撃者としてのAI」という深刻なセキュリティ上の危機感を伝えます。第二部では、AI Agentプログラミングの具体的なサンプルコードに踏み込み、Multi AI Agentの協調・統合の仕組みをGoogle A2AサンプルやADKのコード開発パイプラインを通じて解説します。そして第三部では、「人間はAIに何を伝えるべきか?」という根本問題を提起し、LLMの信頼性の課題を克服する手段として形式手法との統合という革新的なアプローチを紹介し、人間と機械の役割変化という未来への問いで締めくくります。

本セミナーの最も重要な洞察の一つは、AI Agentプログラミングの本質的な変化点にあります。従来のソフトウェアが「どのように動くか」をプログラム言語で記述していたのに対し、AI Agentは「自然言語による指示(instruction)」がコードの中核を占めるという、まったく新しいパラダイムを生み出しています [p.139]。そしてこの変化は、SDLCの自動化という巨大な目標に向けて、「仕様とは何か」「人間は機械に何を、どう伝えるべきか」という根源的な問いを改めて人類に突きつけているのです。

講義のロードマップ


■ Part 1: ソフトウェア開発でのAI利用の動向

  • この部の核心:

AIのコード生成能力への関心が急速に高まる中、主要テクノロジー企業が競うように開発自動化に投資しています。同時に、AIがセキュリティの最大の脅威になりうるという業界全体の危機感も急速に広がっており、技術的楽観論と安全保障上の警戒感が混在する複雑な状況が描かれます [p.4]

  • 論理展開:
  • ザッカーバーグが「12〜18ヶ月以内にLlamaプロジェクトのコードの大部分がAIによって書かれる」と予測し、Metaは600億〜650億ドル規模のインフラ投資でこれを裏付けています [p.12], [p.17]
  • Google(Gemini Code Assist)、Microsoft(GitHub Copilot、95%予測)、OpenAI(超人的コーダーのビジョン)、Anthropic(数ヶ月で90%の予測)、Amazon(数十億ドル規模のエージェントビジネス)が各社固有の戦略で覇権を争っています [p.25], [p.27], [p.30], [p.33], [p.36]
  • RSAC 2025(参加者過去最大の約44,000人)では、「攻撃者としてのAI」が支配的テーマとなり、CopilotのAIジャック、シャドーAI、AI生成コードの脆弱性が具体的事例として報告されました [p.41], [p.46], [p.47], [p.48]
  • AIエージェントが管理されていないAPIキーやサービスアカウント等の非人間アイデンティティ(NHI)と結びつき、組織の80%以上がNHIの追跡すら行えていないという深刻な実態が明らかになっています [p.71], [p.73]


■ Part 2: ソフトウェア開発とAI Agent

  • この部の核心:

AIのSDLCへの導入動向を概観した後、具体的なサンプルコードを通じてMulti AI Agentプログラミングの本質に迫ります。最大の発見は、AI Agentの振る舞いを規定する核心が「自然言語で書かれたLLMへの指示(instruction)」であるという、従来のプログラミングとの根本的な違いです [p.139], [p.140]

  • 論理展開:
  • コード補完(GitHub Copilot、Amazon CodeWhisperer、Cursor)、テスト自動化(Keploy、SWE-agent)、デバッグ(MarsCode Agent)、コードレビュー(CodiumAI PR-Agent)の各領域でAI Agentの導入が急進しています [p.89], [p.105], [p.111], [p.116]
  • MicrosoftがA2A GitHubに投稿したTravel Agentサンプルを解析し、TravelManagerAgent・CurrencyExchangeAgent・ActivityPlannerAgentの三者が「LLMへの自然言語instruction」を通じて協調する仕組みを具体的に確認します [p.145], [p.160], [p.165]
  • GoogleのADK(Agent Development Kit)による「コード開発パイプライン」サンプルでは、CodeWriterAgent→CodeReviewerAgent→CodeRefactorerAgentが順次動作するSequentialAgentパターンを示し、各AgentへのinstructionがLLMへの指示として機能することを解説します [p.202], [p.208], [p.210], [p.216]
  • A2Aプロトコルのキー概念(Agent Card、Task、Message)とAgent Cardによる能力の「広告と発見」の仕組みが、Multi Agent統合の基盤として説明されます [p.171], [p.177]


■ Part 3: ソフトウェア開発の課題と未来

  • この部の核心:

SDLC全体の自動化という目標に対し、現在のAIには根本的な限界が存在します。特に「人間はAIに何をどう伝えるべきか」という仕様提示の問題は未解決であり、その解決策としてLLMと形式手法(Formal Methods)の統合という革新的なアプローチが注目されています [p.6], [p.7], [p.228]

  • 論理展開:
  • カーネギーメロン大学の研究では、最先端のClaude 3.5 SonnetでさえSimulated実務タスクの24%しか完了できず、「Vibe Coding」のような現在の自然言語指示アプローチは大規模開発では根本的に不十分であることが示されています [p.233], [p.241], [p.242]
  • AWS Automated Reasoning(LLM出力を形式論理で事後検証)、Google APOLLO(Lean定理証明器とのフィードバックループでminiF2F 75.0%達成)、DeepSeek Prover-V2(MiniF2F-testで88.9%)という三つの先駆的プロジェクトが、LLMと形式手法の統合の最前線を示します [p.264], [p.268], [p.270], [p.275]
  • 「仕様の階層性」「対話による意図伝達」「DSLの可能性」という三つの概念が、将来の人間とAIの協働モデルの鍵として提示されます [p.245], [p.247], [p.252]
  • 補論として、RussellとNorvigによる古典的AI Agent論と、圏論・複製子論に基づく数学的Agent論という「二つの系譜」が紹介され、Agent概念の知的深度を示します [p.291], [p.292]

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