ラングランズ・プログラムとは何か?
はじめに
2024年も終わりに近づいています。今回のセミナーでは、今年一年のニュースの中で、僕が一番印象に残ったトピックスを取り上げようと思います。
それが、今年五月の 「幾何学的ラングランズ予想の証明 -- Proof of the geometric Langlands conjecture」です。https://people.mpim-bonn.mpg.de/gaitsgde/GLC
繰り返しになりますが、2024年も終わりに近づいています。
それは、21世紀の最初の25年が終わろうとしているということです。
2024年のLanglands Programの大きな進展は、今年一年の重大ニュースというだけでなく、1967年のLanglands Programの開始以来、おそらくこの半世紀の間の最も重要な数学的事件と言っていいと思います。
「ラングランズ・プログラムとは何か? -- やさしい入門編」の目的
もっとも、今回のセミナーは、「Langlands Program」 ( Langlandsが行ったさまざまな「予想」の全体のことです)の詳しい説明を目指したものではありません。
その理由の一つははっきりしていて、大体、僕自身が、きちんとそれを理解していないからです。
先にあげた論文は、5つの論文から構成されていて、全体で、43 + 448 + 330 + 64 + 54 = 939 ページもあります。
ただ、多くの人も、その重要性は、理解できると思っています。
今回のセミナーの目的は、できるだけやさしい言葉で、できるだけ多くの人に Langlands Program とはどういうものかその重要性をを伝えることです。
Langlands と Langlands program
LanglandsとLanglannds programについては、次のwiki ページをご覧ください。
Robert Langlands
https://ja.wikipedia.org/wiki/ロバート・ラングランズ
https://en.wikipedia.org/wiki/Robert_Langlands
Langlands program
https://ja.wikipedia.org/wiki/ラングランズ・プログラム
https://en.wikipedia.org/wiki/Langlands_program
Langlands programの意味するものが、どのようなものかについては、日本語wiki では翻訳されていない 英語wiki の"implications" のセクションがわかりやすいと思いますので、翻訳してみました。
「素人の読者はもちろんや数学の専門家でさえ、ラングランズ・プログラムにおける抽象化は、やや理解しがたいものです。しかし、ラングランズの基本予想の証明または反証には、いくつかの明確な強い暗示があります。
このプログラムでは、解析的整数論と代数幾何の一般化との間に強力な関連性を仮定しているため、数体の抽象代数表現とそれらの解析的素数構成との間の「関手性」という考え方により、素数分布を正確に定量化できる強力な機能ツールが生まれます。 これがさらに、ディオファントス方程式の分類や、さらに高度な代数関数の抽象化を可能にします。
さらに、仮定された対象物に対するこのような一般化代数の相互性が存在し、その解析関数が明確に定義されていることが示されれば、数学における非常に深い結果が証明できる可能性があります。
例としては、楕円曲線の有理解、代数多様体の位相的構成、そして有名なリーマン予想などがあります。このような証明では、一般化された解析級数の抽象的な解が利用されると予想されており、それぞれは数体における構造内の不変性に関連しています。
さらに、ラングランズ・プログラムとM理論との間には、両者の類似性が非自明な方法で結びついており、超弦理論における正確な解法の可能性を示唆しているという仮説が立てられています。(これは、群論におけるmonstrous moonshine群の例と同様です。)
簡単に言えば、ラングランズ・プロジェクトは、幾何学的な形式に埋め込まれた解析関数による代数方程式の厳密解の高次一般化を通じて、数学の最も基本的な領域に触れる、深遠で強力な解決策の枠組みを示唆しています。
これにより、多くの離れた数学分野を強力な分析的手法の形式に統合することが可能になります。」
Frenkelの "Love and Math"
Langlands programを概観するには、Edward Frenkel の“Love and Math” という本がおすすめです。日本語訳の本のタイトルは、「数学の大統一に挑む」になっています。その一部を紹介します。
「ラングランズ・プログラムは、今や広大な研究分野となり、数論、調和解析、幾何学、表現論、数理物理学などさまざまな領域で、多くの数学者がこれに取り組んでいる。数学者たちは、相当異質な対象を調べているにもかかわらず、よく似た現象を見る。」
「父はこれまでの話を読んで、「内容を詰め込みすぎだ」と言った。たしかに本章では、ヒッチン・モジュライ空間、ミラー対称性、Aブレーン、Bブレーン、保型層といった概念が登場した。これらすべての名前を覚えようとするだけでも、頭が痛くなってくるかもしれない。しかし信じてほしいが、ここで話した構成法を隅々まで理解している人は、専門家の中にさえ、まずめったにいないのだ。」
Frenkelは、Langlands program を、数学のさまざまな分野の「大統一」を目指す理論だという特徴づけをしています。それは、当たっていると思います。
今年五月の 「幾何学的ラングランズ予想の証明 -- Proof of the geometric Langlands conjecture」の成功は、2024年、数学は「大統一」へ向けて、大きな一歩を踏み出したことを意味します。
残念なニュース
「大統一理論」というと、物理学での 電磁気力・弱い力・強い力・重力の四つの力を統一する理論、量子力学の「標準モデル」と重力の理論である一般相対性理論の統一を目指す理論を思い浮かべる人が多いと思います。
また、そうした統一理論を牽引してきた代表的な理論が、「超弦理論 super string theory」 であることも、多くの人は知っていると思います。
ただ、僕にとっての2024年の最大のニュースの一つは、Langlands programの画期的な前進とともに、残念なことですが、super string theory の行き詰まりが明らかになってきたことでした。
super string theoryの創始者の一人である、Susskindがそれを率直に認めたことは、衝撃的でした。それについても、今回のセミナーでは、簡単に触れたいと思っています。
数理科学は大きな転換期に差し掛かっている
2024年、数理科学の両輪である数学と物理学の世界に起きた、明暗二つの事件は、21世紀の数理科学が、大きな転換期に差し掛かっていることを示しています。
きっと、これから、我々が恋に落ちる、愛すべき魅力的な新しい数理科学の時代が始まるのだと思います。
It's been too long since we took the time
No one‘s to blame, I know time flies so quickly
But when I see you, darling
It's like we both are falling in love again
It'll be just like starting over (over)
Starting over (over)
セミナーの構成について
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Part 1 基礎準備編
剰余算
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楕円曲線の整数点を数える
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フーリエ級数
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Part 2 谷山・志村予想
奇跡的な一致!
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谷山・志村予想
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楕円曲線とModular formのデータベース LMFDB
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