量子エラー訂正技術の動向
量子エラー訂正技術の前進
生成AIのニュースの影に隠れてあまり目立たなかったかもしれませんが、2023年、2024年と、量子コンピュータの量子エラー訂正技術の分野で大きな前進がありました。
一般誌でも、取り上げられた、代表的なものを二つ紹介します。
一つは、2023年のGoogleの量子エラー訂正にsurface codeの手法を導入した、Nature誌への投稿論文で、量子エラー訂正技術のマイルストーンを超えたと評されました。
もう一つは、2024年のMicrosoftとQuantinuumの論文で、論理qubitのエラーを物理qubitのエラーの800分の1にしたとして注目を集めました。
NISQの時代から、ノイズ耐性を持つResilientコンピューティングの時代へ
こうした量子エラー訂正技術の大きな前進は、かつて(2017年に) Preskill が、量子コンピューティングの現状を、「NISQ (Noisy Intermediate-Scale Quantum)の時代」と特徴づけた時代から、次の時代、すなわち、ノイズ耐性を持つResilient量子コンピューティングの時代にさし掛かりつつあると考えることができることを意味します。
ここでは、我々がどのような時代にいるのかを確認するために、あらためて、Preskillのいう「NISQの時代」の意味を振り返っておこうと思います。
Preskillの「NISQ時代」論
「フォールト・トレラントな量子コンピュータは、今では、まだ遠い夢だとしても、現在、我々は、量子技術における重要な新時代に入ろうとしている。この差し迫った新しい時代を表現するために名前が必要なので、私はNISQという言葉を作った。これは、Noisy Intermediate-Scale Quantumの略である。」
「ここで「Intermediate-Scale 」とは、数年後に利用可能となる、量子ビット数が50から数百程度までの量子コンピュータのサイズを指す。50qubitは、重要なマイルストーンである。それは、最も強力な既存のデジタル・スーパーコンピュータを使用して力づくでシミュレートできるものを超えているからである。」
「「Noisy」とは、我々がそれらのqubitを不完全にしかコントロールできないことを強調している。ノイズは、当面の量子デバイスが達成できることに、重大な制限を課すだろう。」
「物理学者はこのNISQ技術に興奮している。というのも、それが、多数のもつれた粒子の物理学を探求する新しいツールを我々に提供しているからである。この講演の聴衆(ビジネス・コミュニティ)に関心を持つような有用な応用があるかもしれないが、それについては、確かなことは分からない。」
「我々は、NISQそれ自体を、世界を変えるものだと期待すべきではない。そうではなく、それは、将来において開発されるより強力な量子技術への一歩と見なされるべきである。」
「私は、最終的には、量子コンピュータが、社会を変えるような影響を与えると考えているのだが、それにはまだ数十年かかるかもしれない。どれくらいの時間がかかるか、確かなことはわからない。」
セミナーの目標
今回のセミナーでは、NISQを超えた新しい量子技術の時代を切り開きつつある量子エラー訂正技術の現状を紹介することにフォーカスしようと思います。
量子コンピューティングの未来展望と現実的な課題への応用の可能性については、以前のマルレク「量子コンピューティングの現状と課題」 https://www.marulabo.net/docs/20180622-marulec/ を参照ください。資料が、次からダウンロードできます。
https://drive.google.com/file/d/1C8B56SW8rYMztcnZRK3G_oAoh4md85rN/view
参考資料
セミナーでは、次の二つの論文への流れを紹介できればと思っています。
“Quantum error correction below the surface code threshold” (2024/08/24) https://arxiv.org/html/2408.13687v1
“Demonstration of logical qubits and repeated error correction with better-than-physical error rates”(2024/11/17) https://arxiv.org/pdf/2404.02280
参考ビデオ
"Introduction to surface codes" , Alexsei Kitaev
https://youtu.be/M25fBmF9XR0
"Exmentalist View of Surface Code" , John Martines
https://youtu.be/ed9CfJLto1I
"Microsoft and Quantinuum demonstrate the most reliable logical qubits on record"
https://www.youtube.com/watch?v=He4GQiiDyGg
セミナー予告「量子エラー訂正技術の動向」
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Part 1 Surface Codeの基礎
ハードウェアの構成
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qubitの状態の表現
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qubitの状態の変化
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qubitの状態の観測
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